採用×育成2026-07-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

採用と育成をセットで設計する — 人材紹介会社とリスキリング助成金の組み合わせ方

この記事の要点

「この要件を全部満たす経験者、市場にほとんどいませんよ」

人材紹介の仕事をしていると、求人票を前にこの台詞を言わなければならない場面が定期的にあります。新規事業に必要なスキルを全部持った「完成品」の経験者。いれば最高です。ただ、そういう方は他社も欲しいわけで、年収は跳ね上がり、決まるまでの期間は延び、それでも決まらないことが珍しくない。

皆さま、その求人、要件を2割削る勇気はありますか?

「妥協しろ」という話ではありません。削った2割を、国のお金で入社後に埋めるという設計の話です。事業展開等リスキリング支援コースを使えば、中小企業は研修経費の75%が助成されます。僕は人材紹介の現場に20年いますが、この助成金と採用をセットで設計している会社は、体感でまだ1割もありません。だからこそ、先にやった会社が得をします。

0. 前提 — 「採用」と「育成」が別会議になっている問題

多くの会社で、採用計画は経営会議や採用会議で、研修計画は人事の年間計画で、それぞれ別々に決まります。予算科目も違えば、担当者も違う。この分業自体は自然なのですが、新規事業の人材確保という場面では、この縦割りが静かに損を生みます。

採用側は「即戦力がいない」と嘆き、育成側は「研修予算がない」と嘆く。ところが制度の側から見ると、この2つの嘆きはつながっています。中途で採った人を入社後に育てる費用を、国が75%持ってくれる制度があるからです。訓練対象者の要件は「申請事業主における雇用保険の被保険者」。つまり、入社して雇用保険に入った中途社員は、その日から訓練対象者になり得ます。勤続年数の下限のような規定はありません。

ここが今回の隠れた主役です。採用と育成を同じテーブルに載せた瞬間、求人票の書き方そのものが変わります。

1. 「8割人材」設計 — 求人要件の組み替え方

僕が面談や企業との打ち合わせでよく使う言い方に「8割人材」があります。求人要件の8割を満たし、残り2割は入社後に習得してもらう人材のことです。

例えば、製造業の会社が新たにデータ活用サービスを立ち上げるとします。「業界経験10年+データ分析実務3年」という完成品要件で探すと、候補者は一気に狭まります。これを「業界経験10年。データ分析は入社後3か月の研修で習得(会社負担)」に組み替えるとどうなるか。業界経験者という広い母集団がそのまま候補者になり、しかも「会社が育成投資をしてくれる求人」として訴求力まで上がります。

費用面を数字で見ましょう。1人あたり30万円・実訓練40時間のデータ分析研修(通学制)を入社者2名に受けさせた場合、経費助成は30万円×75%×2名=45万円、賃金助成は40時間×960円×2名=約7.7万円。60万円の育成投資のうち約53万円が助成対象になり、実質負担は約7万円です。完成品人材を待ち続けて採用が半年延びるコスト(機会損失・採用広告費・現場の残業)と比べれば、どちらが安いかは明らかだと思います。※金額は厚労省パンフレットの助成率・上限に基づく試算で、実際の支給額は審査により決まります。

1-1. どの2割を削るか

削っていいのは「研修で習得可能なスキル」です。ツールの操作、業界固有の規制知識、社内システム、データ分析の型。逆に削ってはいけないのは、学習で身につきにくいもの——その業界での対人経験、マネジメント経験、そして学び直しへの意欲です。リスキリング前提の採用では、過去のスキルより「新しい分野を面白がれるか」が合否を分けます。面接で見るポイントも、そこにずらす必要があります。

1-2. よくある失敗

ありがちなのが、求人票は完成品要件のまま、面接の場でなんとなく「入社後に覚えてもらえれば」と口頭で緩める運用です。これだと母集団は広がらず、候補者にも育成投資が伝わりません。要件の組み替えは、求人票の文面に書いて初めて機能します。「入社後◯か月で△△研修を実施(費用会社負担)」の一行は、僕の体感では応募率に効きます。

2. 人材紹介会社の使い方 — 「探す」から「設計に巻き込む」へ

人材紹介会社を「要件を渡して探してもらう業者」として使うのは、正直もったいないです。彼らは毎日、候補者の実スキルと市場相場を見ています。その情報は「どの2割なら削れて、研修で埋まるか」の判断材料そのものです。

具体的には、エージェントとの最初の打ち合わせでこう聞いてみてください。「この要件のままだと、候補者は何人くらい見込めますか」「どの要件を外すと母集団が何倍になりますか」。まともなエージェントなら即答できますし、その答えが要件組み替えの設計図になります。そのうえで「外した要件は入社後研修で埋める。助成金を使う」と伝えれば、紹介側も「育成前提で伸びしろのある人」という新しい軸で候補者を出せるようになります。

一つ、僕自身の反省も込めた実感を書きます。ポテンシャライトでも人材紹介事業(PM Quest)を運営していますが、採用支援の現場でこの助成金の話をすると、「紹介会社からお金の制度の話が出るとは思わなかった」と驚かれます。それくらい、採用の商流と助成金の情報は分断されているんです。だからこの組み合わせは、知っているだけで差になります。

3. 時間軸の設計 — 期限逆算のカレンダー

この設計には締切があります。コースは令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置です。採用×育成の設計は採用リードタイムが乗る分、純粋な研修より長い準備期間が要ります。

逆算してみましょう。支給対象にするには訓練開始日の1か月前までに職業訓練実施計画届を出す必要があります。中途採用のリードタイムを募集開始から入社まで3〜4か月と置き、入社後1〜2か月で研修開始とすると、募集開始から計画届提出まで約半年。最終年度の駆け込みを避けるなら、逆算上、来期の採用計画を立てる「今」がちょうど設計のタイミングです。

言い切ります。この組み合わせを2027年3月に思いついても、もう間に合いません。

4. 実務パート — 採用会議に持ち込む3点セット(所要60分)

その1(20分):現在オープン中の求人票から1つ選び、要件を「必須で残す8割」と「研修で埋める2割」に赤ペンで分ける。

その2(20分):「埋める2割」に対応する研修を探し、受講料×75%で助成額をざっくり試算する(経費上限は1人1訓練あたり中小企業30〜50万円・実訓練時間数で変動)。

その3(20分):入社月→研修開始月→計画届提出月(研修開始の1か月前)を1枚のカレンダーにする。この3点セットがあれば、次の採用会議で「採用と育成の予算を一体で見る」議論が始められます。

結論 — 人が採れない時代の、静かな武器

誤解がないように申し上げると、助成金は採用難の特効薬ではありません。ただ、「完成品を待つ採用」から「育てる前提の採用」への転換を、費用面で強烈に後押ししてくれる道具ではあります。そしてその道具には2027年3月末という使用期限がある。

まずは自社がこの制度をどこまで使える状態かを、15問の活用度診断で確かめてみてください。採用要件の設計や研修の選び方まで踏み込んだ相談は、無料相談会でお受けしています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」(mhlw.go.jp公表資料・2026年7月確認)。試算はすべて制度上の助成率・上限に基づく目安であり、実際の支給額は個別の審査により決まります。申請前に必ず管轄の都道府県労働局にご確認ください。

よくある質問

Q. 中途採用した社員もリスキリング助成金の対象になりますか?

対象になり得ます。訓練対象者は申請事業主における雇用保険の被保険者で、入社時期による除外規定はありません。中途入社者への入社後研修も、OFF-JT・実訓練10時間以上・事業展開またはDX/GX関連という訓練要件を満たせば設計できます。

Q. 採用と助成金を組み合わせる利点は何ですか?

求人要件を「完成品の経験者」から「8割人材+入社後育成」に広げられることです。母集団が広がって採用難易度と期間が下がり、育成費用は中小企業なら経費の75%・1人最大50万円まで助成されるため、トータルの人材獲得コストを下げやすくなります。

Q. 研修中の給料にも助成はありますか?

あります。賃金助成として1人1時間あたり960円(中小企業。大企業480円)が支給されます(限度1,200時間)。ただしeラーニング・通信制・定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成の対象外です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の試算・体感値は独自の目安であり、個別の状況により変動します。

採用と育成、同じテーブルで一度設計してみませんか。

15問の活用度診断で自社の現在地が分かります。求人要件の組み替え・研修選定・助成金の全体設計は、ポテンシャライトのAI無料相談会(yamane@potentialight.com)でご相談ください。

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