申請実務2026-07-08監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

リスキリング助成金の申請手順を5ステップで — 計画届は訓練開始の1か月前まで

この記事の要点

「制度は分かったんです。で、結局、何をどの順番でやればいいんですか?」

前回の全体像の記事を読んでくださった人事の方から、まさにこの質問をいただきました。もっともだと思います。助成金の解説は世の中にたくさんありますが、「月曜の朝、担当者が最初に開くべき書類は何か」まで書いてあるものは、ほとんどありません。

皆さま、助成金の申請と聞いてどんなイメージをお持ちですか。「難しそう」という声が大半だと思うのですが、僕の見立ては少し違っていて、難しいのではなく、工程が多いだけです。工程が多い仕事は、分解して並べれば必ず終わります。この記事では、事業展開等リスキリング支援コースの申請を5ステップに分解します。数値・様式名はすべて厚生労働省のパンフレット(詳細版)に基づいています。

0. 前提 — 期限は2つしかない

細かい話に入る前に、この助成金の期限構造を先に頭に入れてください。覚えるべき期限は、実は2つだけです。

①職業訓練実施計画届=訓練開始日の1か月前まで。②支給申請=訓練終了日の翌日から2か月以内。

例えば訓練開始日が7月1日なら計画届の期限は6月1日。訓練が9月30日に終われば、支給申請は11月30日まで。この2本の杭さえ打てば、間の工程はすべて逆算で決まります。日付の数え方には細かい規定があり(訓練開始日が7月31日なら期限は6月30日、など)、パンフレットに計算例が載っています。ここが今回の隠れた主役なので、まずこの2つの日付を自社のカレンダーに書き込んでから読み進めてください。

1. STEP1 — 社内体制を整える(推進者と事業内計画)

計画届を出す前に完了しておくべき前提が2つあります。

1つ目は職業能力開発推進者の選任。事業所ごとに1名以上、従業員の育成に関する権限を持つ人を選びます。教育訓練部門や人事・労務の部課長が典型です。常時雇用100人以下の事業所で適任者がいなければ、本社の推進者が兼任できます。

2つ目は事業内職業能力開発計画の策定と周知。自社の人材育成の基本方針を文書化し、従業員に共有することです。厚労省が「作成の手引き」とひな形を公開しているので、ゼロから書く必要はありません。大事なのは周知の実態で、社内ポータルへの掲載や朝礼での説明など、「従業員が見られる状態にした」事実を作っておくことです。

率直に言うと、このSTEP1でかかる時間は集中すれば2〜3営業日です。ただし放置すると無限に後回しになる種類の仕事でもあります。担当者と締切を先に決めてしまうのが唯一のコツです。

2. STEP2 — 訓練を設計する(ここで受給額が決まる)

次に、実施する訓練の中身を固めます。設計の要件は3つ。OFF-JT(通常業務と区別して実施)であること、実訓練時間が10時間以上であること、対象者が雇用保険の被保険者であることです。

ここで受給額に直結する分岐が2つあります。1つは訓練時間数です。経費助成の上限は中小企業で、10時間以上100時間未満=30万円、100時間以上200時間未満=40万円、200時間以上=50万円(いずれも1人1訓練あたり)と、時間数で3段階に変わります。もう1つは実施形態で、eラーニング・通信制は経費助成のみ・上限一律15万円(中小企業・令和8年4月8日改正後)になる一方、通学制や同時双方向型のオンライン研修なら通常の上限と賃金助成(1人1時間960円)が両方使えます。

実訓練時間の数え方にも注意が要ります。昼食休憩や移動時間は含められません。小休止は1日累計60分まで、開講式・オリエンテーションは計画届あたり累計60分までなど、除外ルールが細かく決まっています。研修会社にカリキュラムを出してもらう際、「助成金申請に使うので、実訓練時間が分かる形式で」と最初に伝えておくと、後工程が楽になります。

3. STEP3 — 計画届を提出する(様式第1-1号)

訓練開始日の1か月前までに、職業訓練実施計画届(様式第1-1号)と添付書類を管轄の都道府県労働局に提出します。申請は雇用保険適用事業所単位ですが、本社がまとめて行うことも可能です。

このコース特有の記載が「事業展開の内容」です。事業展開ルートで申請する場合、現在の事業内容と、訓練の端緒となる事業展開の中身を具体的に書きます。事業展開は訓練開始日から3年以内に実施予定、または6か月以内に実施したものに限る、という時期要件もここで確認されます。DX・GXルートなら、デジタル化・グリーン化との業務関連性を説明することになります。

僕が伴走したケースで言うと、初回の計画届でつまずくポイントは書類の難しさより「研修会社からの見積書・カリキュラムが揃わない」という段取りの問題が大半でした。労働局は提出前の相談を受け付けています。書き方に迷ったら、自己流で埋めるより先に電話するのが結局最速です。

4. STEP4 — 訓練を実施し、支払いを完了する

計画に沿って訓練を実施します。実務上の注意は3つです。

第一に、訓練経費は支給申請までに事業主が全額支払いを終えていること。分割払いの残債があると申請できません。第二に、経費を従業員に負担させないこと。受講料の一部天引きなどがあると支給対象外です。第三に、出欠・実施記録を残すこと。誰が何時間受講したかは賃金助成の計算根拠になります。

計画に変更が生じた場合は変更届(様式第3号)が必要です。受講者の病気など、やむを得ない理由による日程変更は変更後の実施日から7日以内など、変更の種類ごとに提出ルールが違うので、変更が起きたらまず労働局に相談してください。自己判断での「まあいいか」が、一番もったいない不支給につながります。

5. STEP5 — 支給申請する(様式第5号・2か月以内)

訓練終了日の翌日から2か月以内に、支給申請書(様式第5号)と必要書類を労働局に提出します。経費の支払いを証明する書類、出欠記録、賃金台帳などが添付書類の中心です。審査には時間がかかりますが、要件と証憑が揃っていれば、あとは待つだけです。

ここまでの5ステップを俯瞰すると、担当者が手を動かすのは実質STEP1〜3に集中していることが分かります。つまり、この助成金は「前半勝負」です。訓練が始まってしまえば、残りは記録の管理と期日どおりの申請だけ。最初の1〜2か月に力を入れられるかどうかが、すべてを決めます。

6. 実際の相談でよく出る「ここで止まる」ポイント

僕がこれまで受けてきた相談を振り返ると、申請実務は「知識不足」より「手が止まる瞬間」で失敗することが多いという印象があります。特に多いのが、①研修会社との契約書に助成金申請前提であることを明記し忘れる、②訓練カリキュラムの時間割を証憑として保存し忘れる、③支給申請の担当者が異動で変わり引き継ぎが漏れる、の3つです。いずれも制度理解の話ではなく、社内の運用設計の話です。申請実務は「1人の担当者の頭の中」に閉じ込めないことが、地味ですが一番効くリスク対策だと僕は考えています。

もう一つ実務でよく聞かれるのが「労働局とのやり取りはどれくらい発生するか」という質問です。書類に不備がなければ電話やメールでのやり取りは最小限で済みますが、初めての申請では計画届の記載内容について確認の連絡が入ることが珍しくありません。初回申請は余裕を持ったスケジュールで臨むのが、僕からの率直なアドバイスです。

結論 — 初回は小さく、2回目から大きく

誤解がないように申し上げると、初めての申請で全社研修のような大きな計画を組むことはおすすめしません。対象者数名・1講座で一度受給まで走り切り、申請ノウハウを社内に残す。同一労働者は年度3回まで受講でき、1事業所の年度上限は1億円ですから、2回目以降に規模を広げる余地は十分にあります。

2027年3月末の期限から逆算すると、「小さく1回目」を回せるタイミングは残りわずかです。皆さんいかがでしたでしょうか。自社が5ステップのどこから始めるべきかは活用度診断で確かめられます。では今日もがんばりましょう。

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版)」および「令和8年4月8日からの変更点について」(いずれもmhlw.go.jp公表資料・2026年7月確認)。様式・期限等は改正される場合があります。申請前に必ず管轄の都道府県労働局にご確認ください。

よくある質問

Q. 職業訓練実施計画届はいつまでに提出しますか?

訓練開始日から起算して1か月前までに、管轄の都道府県労働局へ提出します。例えば訓練開始日が7月1日なら提出期限は6月1日です。定額制サービスによる訓練の場合は、契約期間の初日から起算して1か月前までです。

Q. 支給申請はいつまでに行いますか?

訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書(様式第5号)と必要書類を労働局へ提出します。訓練にかかった費用は支給申請までに全額支払いを終えている必要があります。

Q. 申請前に整えておく社内体制はありますか?

2つあります。①職業能力開発推進者の選任(事業所ごとに1名以上)、②事業内職業能力開発計画の策定と従業員への周知です。いずれも計画届の提出までに完了している必要があります。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の体感値・所要日数は独自の目安であり、個別の状況により変動します。

5ステップの「どこから」始めるかを、先に決めませんか。

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