併用・制度比較2026-08-25監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

人材開発支援助成金と他の助成金の併用可否 — 併給調整の実務ルール

この記事の要点

「うちはIT導入補助金も申請するんですが、人材開発支援助成金と一緒に使ってもいいんですよね?書類、まとめて作った方が効率的だと思うんですが」

数年前、製造業の人事担当者の方からこう聞かれたことがあります。結論から言うと、答えは「経費が重ならなければ、多くの場合は併用できます」でした。ただし「同じ経費に対して二重に助成を受けることはできない」という原則があり、ここを曖昧にしたまま両方の申請書を出すと、後になって支給決定の取り消しや返還を求められるリスクが生まれます。この記事では、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)と他の助成金・補助金を組み合わせる際に、僕が実務で確認してきたポイントを、失敗例やケース比較も交えて整理してお伝えします。

0. 結論 — 「経費が重複しなければ併用可、重複したら二重取り不可」

人材開発支援助成金を含む雇用関係助成金には、「同一の経費について、国または地方公共団体から他の助成金等の支給を受けている場合、その重複する額を対象経費から除く」という趣旨の取扱いが厚生労働省の支給要領に定められています(出典:厚生労働省「雇用関係助成金支給要領」)。つまり判定の単位は「経費」であって「事業」や「会社」ではありません。同じ研修の同じ経費項目(例:教材費〇円)を人材開発支援助成金とIT導入補助金の両方に計上することはできませんが、対象経費が異なれば(例:教材費は人材開発支援助成金、システム導入費はIT導入補助金)、両方を使うこと自体は制度上想定されています。

1. 「併給調整」の原則を分解する

併給調整という言葉は少し硬いですが、要は「同じ財布から二重に出金しない」というだけの話です。厚労省の助成金は税金を原資にしているため、同じ支出に対して複数の制度から補填を受けると、実質的に事業者が経費を負担せずに利益を得る形になってしまいます。これを防ぐための規定が、雇用関係助成金全体に共通して置かれています。

実務上のポイントは3つあります。①対象は「経費の項目単位」で判定される、②「受けている」だけでなく「受けようとしている」場合も対象になる、③判定は労働局・機構が個別の申請内容を見て行うため、事前に自己判断だけで進めるのはリスクがあるという点です。僕の体感値で言うと、担当者の方が一番誤解しやすいのは①で、「会社としてIT導入補助金を使っているから、人材開発支援助成金は全部ダメ」と思い込んでしまうケースです。経費項目を分けて整理すれば、両方使える場面は実際には多いと考えています。付け加えると、教材費20万円のうち10万円をIT導入補助金、残り10万円を人材開発支援助成金に、という按分での二重計上もできません。按分ではなく「項目そのもの」を分けるのが原則です。

2. コースをまたぐ場合とキャリアアップ助成金との組み合わせ方

人材開発支援助成金には複数のコースがあり、同じ会社が事業展開等リスキリング支援コースと、他のコース(例:人への投資促進コースなど)を同時期に使いたいというご相談もよくいただきます。この場合も原則は同じで、同一の労働者に対する同一の訓練・同一の経費で二重に申請することはできません。ただし、対象となる労働者や訓練内容が異なっていれば、同じ年度内に複数コースを並行して活用すること自体は可能です。営業部門の生成AI活用研修は事業展開等リスキリング支援コースで、製造部門の技能検定対策講習は別コースで、というように事業所内で使い分けている企業もあります。

キャリアアップ助成金は非正規雇用労働者の正社員化など雇用形態の変更に対する助成金で、人材開発支援助成金の「訓練」とは制度の目的が異なります。目的が異なるため、同一労働者について、非正規から正社員への転換にキャリアアップ助成金を使い、その後の育成訓練に人材開発支援助成金を使うという組み合わせ自体は制度上矛盾しません。ただし転換前後で対象労働者としての要件(雇用形態・被保険者期間など)が変わる場合があるため、訓練計画を立てるタイミングと転換のタイミングは別々に確認する必要があります。業務改善助成金(最低賃金引き上げに伴う設備投資等を支援する制度)とは、対象経費がそもそも異なる(設備投資費 vs 研修経費)ため、多くの場合は経費が重複せず併用可能ですが、同じ設備を研修教材として使う場合など経費の性質が重なるケースもあるため、個別に労働局へ確認したほうが安全です。

3. 他省庁・自治体の補助金との重複確認の手順

IT導入補助金(経済産業省)やものづくり補助金のように、所管省庁が異なる補助金との組み合わせも実務上よくあるご相談です。制度が異なるからといって自動的に併用可になるわけではなく、「対象経費が重複していないか」を必ず個別に照合する必要があります。実務では次の順で確認するのが安全だと僕は考えています。所要時間の目安は、経費突合の表作成に半日、事務局への確認メール往復に1〜2週間ほど見ておくと余裕を持って動けます。

確認ステップ内容
①対象経費の突合それぞれの制度の交付要綱・支給要領を並べ、経費項目(教材費・外部委託費・システム導入費等)が重複していないかを表にして確認する
②時期の突合訓練期間と設備導入期間が重なる場合、按分計算が必要になることがあるため実施時期をずらせるか検討する
③事務局への事前確認人材開発支援助成金は管轄の労働局・機構、他制度は各補助金事務局に、同一事業内での併用可否を書面かメールで確認しておく
④確認結果の保管問い合わせた日時・担当窓口・回答内容をメールやメモで残し、支給申請時に提出できる状態にしておく

自治体独自の助成金は、要綱の中に「国の助成金と同一経費については対象外」と明記されているケースが多い印象があります。自治体の助成金を検討している場合は、要綱の「重複受給の禁止」条項を必ず確認してください。また④の確認結果の保管は地味な作業ですが、後日労働局から問い合わせがあった際に「いつ誰にどう確認したか」を即座に示せるかどうかで、対応のスピードがまったく変わってきます。

4. ケース別に見る併用可否の判断イメージ

言葉で原則を説明するより、実際にどう判断していくかをケースで見た方がイメージしやすいと思います。あくまで一般的な傾向であり、最終判断は各制度の窓口確認が前提になりますが、僕が相談を受けてきた中でよく出てくる4つのパターンを整理すると、次のような形になります。

組み合わせ経費の重なり方判断の傾向
人材開発支援助成金+IT導入補助金研修委託費とシステム導入費が別契約・別項目経費が分かれていれば併用しやすい
人材開発支援助成金+キャリアアップ助成金訓練経費と転換に伴う手当は別性質対象労働者要件のタイミングさえ整理できれば併用しやすい
人材開発支援助成金+業務改善助成金設備投資費と研修経費は原則別項目だが、教材として使う設備が重なることがある設備と研修内容の関係を個別に説明できれば併用しやすい
人材開発支援助成金+自治体独自の研修助成同じ研修の同じ委託費を計上しがち要綱に重複禁止条項があることが多く要注意

特に4つ目のパターンは見落としがちです。自治体の助成金は募集要項が簡潔なことも多く、「国の制度との併用不可」の一文を読み飛ばしてしまうと、後から自治体側の助成金を取り下げる羽目になった、という相談を受けたこともあります。

5. 僕が見た失敗パターンと申請前に確認したい実務アクション

以前ご相談を受けた企業では、外部の研修会社に委託した生成AI研修について、教材費とシステム利用料を含む委託費全体を人材開発支援助成金の対象経費として計上する一方、同じ委託費の一部をIT導入補助金の対象経費としても計上していました。担当者としては「別の制度だから問題ない」という認識だったのですが、実際には同じ支出(同じ請求書の同じ金額)を二重に使っていたため、後日どちらかの助成金で経費を按分し直す必要が生じ、支給申請のスケジュールが1か月以上遅れてしまいました。実際に経費を切り分け直す作業だけで社内担当者が3日ほど拘束されたと聞いています。

もう一つ、これは軽微な例ですが、自治体の研修助成金との併用チェックを怠り、申請直前になって要綱の「国の助成金と同一経費は対象外」という一文に気づき、自治体側の申請を取り下げた企業もありました。金額としては数万円規模でしたが、社内稟議を通し直す手間がかかり、担当者の方は「最初に要綱を全部読んでおけばよかった」と振り返っていました。

この経験から僕が学んだのは、複数の助成金・補助金を使う予定がある場合、契約や請求書の段階で「どの経費をどの制度に充てるか」をあらかじめ項目ごとに切り分けておくことの大切さです。研修会社に見積もりを依頼する際に、教材費・講師料・システム利用料を別項目で出してもらうだけでも、後の按分作業がかなり楽になります。逆に、見積もりを一式でまとめて発注してしまうと、後からの切り分けに社内で数日かかることもあり、結果的に支給申請の期限を圧迫してしまいます。訓練計画届を出す前に、次の4つは最低限やっておきたいアクションです。

  1. 使う予定のすべての助成金・補助金をリストアップし、対象経費の項目を横並びで表にする
  2. 経費が重複しそうな項目があれば、契約・見積もりの段階で項目を分けてもらう
  3. 自治体独自の助成金を使う場合は、要綱の「重複受給の禁止」条項の有無を必ず確認する
  4. 判断に迷う場合は、人材開発支援助成金側は管轄の労働局・機構、他制度は各事務局に、実施前に書面またはメールで確認を取り、その記録を保管しておく

(結論)

人材開発支援助成金と他の助成金・補助金の関係は、「制度同士が敵対しているから使えない」わけではなく、「同じ経費を二重に使わないでください」というシンプルな原則に基づいています。事業展開等リスキリング支援コースを軸に、キャリアアップ助成金やIT導入補助金などを組み合わせて人材育成と事業投資を同時に進めている企業は実際にあります。大切なのは、経費項目を早い段階で切り分け、判断に迷うところは自己判断せずに管轄窓口へ確認し、その記録を残しておくことです。

皆さんいかがでしたでしょうか。制度をまたいだ資金計画は少し面倒に感じるかもしれませんが、一つひとつの経費を丁寧に切り分けていけば、決して難しい作業ではありません。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 人材開発支援助成金は他の助成金と併用できますか?

対象経費が重複しなければ、多くの場合併用できます。ただし同一の経費について二重に助成を受けることはできないため、教材費・システム導入費など経費項目ごとに使う制度を分けて整理する必要があります。判断に迷う場合は管轄の労働局や各制度の事務局に事前確認することをおすすめします。

Q. IT導入補助金と人材開発支援助成金は同時に申請できますか?

対象経費が重ならなければ同時に申請できる場合が多いです。研修の教材費・委託費は人材開発支援助成金、システム導入費はIT導入補助金というように、契約・見積もりの段階で経費項目を分けておくと、後の按分作業が不要になり手続きがスムーズになります。

Q. キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金は同じ社員に対して使えますか?

制度の目的が異なるため、同一の社員に対して段階的に使うこと自体は可能です。例えば非正規社員の正社員転換にキャリアアップ助成金を使い、その後の育成研修に人材開発支援助成金を使うといった組み合わせが考えられますが、転換タイミングによって対象労働者要件が変わる点には注意が必要です。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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