人材開発支援助成金の対象経費ガイド — 教材費・旅費・外部講師費の線引き
- 人材開発支援助成金の訓練経費は、外部講師の謝金や教材費が対象で、社内講師の人件費や汎用PC購入費は原則対象外である。
- 僕の体感値では、初回相談時の経費書類の約3割に対象外費用が混在しており、事前チェックで防げるケースが多い。
- 経費区分の誤りは即不支給の理由になりにくいが、証拠書類の不備は審査遅延の主要因になりやすい。
「先生、この経費、通るんですか?」— 先日、都内の医療機器メーカーの人事担当者様からいただいたご相談です。見積書を拝見したところ、外部講師への謝金と、受講者用に新規購入したノートパソコンの代金が、同じ「訓練経費」の欄にまとめて記載されていました。悪気があってのことではなく、単純に「訓練のために使うものだから全部対象になるはず」と思われていた、というのが実情でした。
結論からお伝えすると、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)の訓練経費には、明確な対象・対象外の線引きがあります。この線引きを事前に理解しておくかどうかで、計画届の作成スピードも、支給申請時のヒヤヒヤ感もまったく変わってくると、僕は考えています。今回は、実際にいただいたご相談をもとに、経費区分の考え方を整理していきます。
0. 「その経費、通るんですか?」から始まった相談
先ほどの医療機器メーカーの例では、訓練経費の見積もりに次のようなものが並んでいました。外部講師への講師料、教材となるテキスト代、会場のレンタル費用、そして受講者用のパソコン購入費です。前半の3つは対象になる可能性が高いのですが、最後のパソコン購入費については、原則として訓練経費の対象にはならない、とお伝えしました。ご担当者様は「訓練に使うものなのに、なぜ対象外なのか」と少し驚かれていましたが、これは人材開発支援助成金という制度の設計思想を理解すると、腑に落ちる話だと思います。
この助成金は、あくまで「訓練そのものにかかる経費」を対象にしていて、訓練が終わった後も会社の資産として残る汎用品(パソコン、タブレット、書棚など)は、原則として対象から外れる、という考え方が背景にあります。僕の体感値で言うと、初回のご相談でいただく経費書類のうち、およそ3割ほどにこの種の対象外費用が混ざっていることが多いです。悪意があるわけではなく、単に「訓練のために使ったから対象になるはず」という自然な発想から生じる誤解だと感じています。
1. 対象経費の全体像 — 訓練経費と賃金助成は別物
まず整理しておきたいのが、人材開発支援助成金には大きく2つの助成枠があるという点です。ひとつは「訓練経費助成」で、これは受講料や教材費など、訓練の実施に直接かかった費用の一部を助成するものです。もうひとつは「賃金助成」で、訓練期間中に労働者に支払う賃金の一部を助成する枠です。この2つは会計上も申請書類上もまったく別の区分として扱われます。
今回お伝えしている「対象経費の線引き」は、前者の訓練経費助成の話です。ここでよくある誤解が、「訓練期間中に発生した費用は全部訓練経費に入れていい」という考え方です。実際には、訓練経費助成の対象になるのは「訓練の実施そのものに直接必要な経費」に限られていて、訓練期間中に発生したその他の費用(通信費、光熱費、汎用機器の購入費など)は、原則として別枠、あるいは対象外として扱われます。この区分を最初に押さえておくと、後の経費一覧を見たときの理解がぐっとスムーズになると思います。
2. 対象になる経費 — 受講料・教材費・外部講師費・施設利用料
厚生労働省が公表している人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のパンフレット等を確認すると、訓練経費として対象になり得る費用は、おおむね次のような項目に整理できます。
| 経費区分 | 具体例 | 対象になりやすいポイント |
|---|---|---|
| 受講料 | 外部研修機関・eラーニングサービスの受講料 | 訓練内容が事業展開等リスキリング支援コースの趣旨に合致していること |
| 教材費 | テキスト代、副教材、指定の学習用ソフトウェア利用料 | 訓練で実際に使用する教材であることが確認できること |
| 外部講師費 | 外部講師への謝金・旅費 | 講師が事業所の従業員ではない外部の専門家であること |
| 施設・設備使用料 | 会場レンタル費、訓練用機器のレンタル費 | 訓練期間中のみの利用であることが分かる契約・請求書があること |
ここでポイントになるのが「外部講師費」という区分です。訓練を実施する講師が、自社の従業員(社内講師)なのか、外部の専門家(外部講師)なのかによって、経費として認められるかどうかが変わってきます。次の章で、この境界線についてもう少し詳しくお話しします。
3. 対象にならない経費 — PC購入費、通信費、社内講師人件費の扱い
対象外になりやすい経費として、僕がご相談の中でよく目にするのは次の3つです。ひとつ目はパソコンやタブレットなど、汎用性の高いOA機器の購入費です。これらは訓練終了後も会社の資産として残るため、「訓練専用の消費物」とは見なされにくく、原則として対象外になります。レンタルであれば認められる余地もありますが、購入となると難しいケースが多い、というのが僕の理解です。
ふたつ目は、受講に必要なインターネット接続費用や通信費です。これらは訓練の実施に間接的に関わってはいますが、訓練そのものに直接必要な経費とは区別されるため、対象外として扱われることが一般的です。
みっつ目が、先ほど触れた社内講師の人件費です。自社の従業員が講師を務める場合、その従業員の通常給与に相当する人件費は、訓練経費としては対象になりません。ここは特に誤解が多いポイントで、「社内の詳しい人に教えてもらえば経費が浮くし助成対象にもなるはず」と考えてしまう会社様が少なくないのですが、実際には逆で、社内講師方式では訓練経費としての助成は基本的に発生せず、対象になるのは訓練期間中の受講者側の賃金助成部分のみ、という整理になります。この点は特に、生成AI研修のように社内のエンジニアが講師を務めるケースで見落としやすいので、注意が必要だと感じています。
4. 経費区分でよくある失敗と対処 — 見積書・請求書の作り方
経費区分でつまずくケースには、いくつかの共通パターンがあります。ひとつは、ひとつの見積書や請求書の中に、対象経費と対象外経費が混在したまま記載されているケースです。たとえば「研修一式」というような大きな括りで請求されてしまうと、審査担当者から見て、どこまでが訓練経費に該当するのか判断がつきにくくなります。対処法としては、研修会社に依頼する段階で、受講料・教材費・その他費用(機材費や事務費など)を分けて見積書を作成してもらうことをお勧めしています。
もうひとつのよくある失敗が、外部講師と社内講師の区分があいまいなまま契約書を作ってしまうケースです。たとえば、フリーランスの元社員に講師を依頼した場合、その人が現在も自社の業務委託先として継続的に関わっているのか、完全に外部の第三者として単発の講師を務めているのかによって、扱いが変わってくる可能性があります。契約時点で、講師としての立場を明確にしておくことが、後々の証拠書類の整合性を保つうえで重要だと考えています。
3つ目は、証拠書類の日付のズレです。訓練開始前に計画届で見積書を提出し、訓練終了後の支給申請で実際の請求書・領収書を提出する、という2段階の流れになるのですが、この間に経費の内容や金額が変わってしまい、整合性が取れなくなるケースが時折見られます。見積書の段階からできるだけ確定的な内容にしておくこと、変更があった場合は変更届を出しておくことが、審査をスムーズに進めるうえでの実務上のコツだと感じています。
5. 今日からできる実務チェックリスト — 計画届提出前にやること
ここまでの内容を踏まえて、計画届を提出する前に確認しておきたいポイントを整理します。まず、研修会社やベンダーから受け取る見積書について、受講料・教材費・講師費・その他費用が項目ごとに分かれているかを確認してください。ひとつの項目にまとめられている場合は、内訳を出してもらうよう依頼することをお勧めします。
次に、講師が外部の専門家か、社内の従業員かを明確にしておきます。社内講師方式を採用する場合は、訓練経費助成ではなく賃金助成が中心になる、という前提で予算設計をしておく必要があります。
そして、受講者用に新たに購入予定の機器がある場合は、それが訓練経費として計上できるものかどうかを、事前に管轄の労働局やポテンシャライトのような支援機関に確認しておくことをお勧めします。レンタルへの切り替えで対象経費に含められるケースもあるため、購入する前に一度立ち止まって検討する価値はあると思います。
最後に、見積書の段階で「これはおそらく対象外だろう」と思われる項目があれば、それを訓練経費の見積もりから外し、別枠の予算として管理しておくことです。これをやっておくだけで、支給申請時に慌てて経費を組み替える、という事態を避けられると考えています。ちょうど、旅行の予定を立てるときに、必須の費用(交通費・宿泊費)と、当日の気分で決める費用(お土産代)を最初から別の財布に分けておくようなイメージだと捉えていただくと分かりやすいかもしれません。
(結論) 経費の線引きは「事前確認」で防げる
今回お伝えしたかったのは、人材開発支援助成金の対象経費には明確な線引きがあり、その多くは事前に確認しておくことで防げる、という点です。外部講師への謝金や教材費、施設・設備の利用料は対象になりやすい一方、汎用性の高いパソコンの購入費や、社内講師の人件費は原則対象外になる、というのが基本の考え方でした。
冒頭でご紹介した医療機器メーカーのご担当者様には、パソコン購入費を訓練経費の見積もりから外していただき、代わりにレンタル契約に切り替えるご提案をしました。結果として、計画届もスムーズに受理され、ご担当者様も「最初にここまで整理してもらえて助かった」とおっしゃっていました。経費区分のルールは、細かく見ると複雑に感じられるかもしれませんが、ひとつひとつの項目を「これは訓練そのものに直接必要か」という軸で確認していけば、判断はそれほど難しくないと僕は考えています。
皆さんいかがでしたでしょうか。経費の線引きに不安がある場合は、計画届を出す前の段階で一度整理しておくことを強くお勧めします。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 社内講師が教える場合、人件費は助成対象になりますか?
結論、原則対象外です。人材開発支援助成金の訓練経費として認められるのは外部講師への謝金・旅費が中心で、社内講師本人の人件費(通常給与相当分)は訓練経費の対象にはなりません。ただし訓練期間中の賃金については別枠の「賃金助成」で一定額が助成される仕組みになっているため、経費区分を混同しないことが重要です(出典:厚生労働省リーフレット)。
Q. eラーニングの受講料に加えて、受講用のパソコンを新規購入した場合、その費用は対象になりますか?
結論、原則対象外です。厚生労働省が公表する要件では、汎用性の高いOA機器(パソコン・タブレット等)の購入費は訓練経費に含まれないケースが一般的です。レンタル費用など訓練専用であることが明確な形態であれば認められる余地もあるため、事前に管轄の労働局へ確認することをお勧めします。
Q. 対象外経費が混ざっていた場合、申請自体が不支給になりますか?
結論、経費区分の一部が対象外でも、申請全体が即不支給になるわけではありません。対象外部分を除外して再計算されるか、事前確認の段階で指摘を受けて修正するケースが多いです。ただし証拠書類(見積書・請求書・領収書)の整合性に不備があると、審査の遅延や追加確認の対象になりやすいため注意が必要です。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。