対象労働者の範囲はどこまで? — 雇用形態・年齢別の実務判定ガイド
- 人材開発支援助成金の対象労働者は雇用保険被保険者であることが要件で、週所定労働時間が目安20時間以上のパート社員も対象になり得ます。
- 出向者は出向元・出向先どちらと雇用契約を結んでいるかで判定が変わり、実務上は訓練開始の1か月前までに労働局へ確認しておくと安全です。
- 65歳以上の高年齢被保険者も要件を満たせば対象になり得るため、定年再雇用者を除外する必要は必ずしもありません。
「うちは契約社員とパートさんが8割なんですが、それでも人材開発支援助成金って使えますか?」
先日、地方のBtoBメーカーの人事担当者の方からいただいた質問です。結論から言うと、使えます。人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)が見ているのは「正社員かどうか」ではなく「雇用保険の被保険者かどうか」だからです。ただし、雇用形態ごとに実務上の線引きがいくつかあり、そこを知らずに計画を立てると、訓練後になって「この人は対象外でした」と発覚し、助成対象人数がまるごと目減りする、ということが起こります。この記事では、対象労働者の範囲を雇用形態別・年齢別に整理し、僕が実際の相談現場で見てきたつまずきポイントと、その対処に使える実務手順もあわせてお伝えします。
1. まず大前提:助成金が見ているのは「雇用保険被保険者かどうか」
人材開発支援助成金の対象労働者は、訓練実施計画届を提出する事業主に雇用され、雇用保険の被保険者となっている人、というのが基本の考え方です。正社員であることは条件ではありません。逆に言えば、どれだけ長く勤めていても、雇用保険に加入していなければ対象労働者にはカウントできない、ということでもあります。
ここで注意したいのは、事業内職業能力開発計画で対象者の範囲をどう定義したかとの整合性です。この計画書に書いた対象者の範囲と、実際に訓練を受講させる従業員の雇用実態がずれていると、審査の段階で説明を求められることがあります。まずは「誰が雇用保険に入っているか」を人事台帳ベースで洗い出すところから始めるのが実務上は安全だと僕は考えています。僕の体感値ですが、この洗い出し作業を後回しにした会社ほど、計画届の提出直前になって対象者の入れ替えに追われる傾向があります。
2. 雇用形態別に見る対象・対象外の目安
僕が相談を受ける中でよく聞かれる雇用形態ごとの扱いを、目安として整理すると次のようになります。あくまで一般的な傾向であり、個別の雇用契約の内容によって判断が変わるケースもあるため、最終的には管轄の労働局への確認をおすすめします。
| 雇用形態 | 対象になり得るか | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 正社員(無期雇用) | 対象になりやすい | 雇用保険加入が前提。特別な確認は不要なことが多い |
| 契約社員・有期雇用 | 対象になり得る | 雇用保険に加入していれば雇用期間の長短だけで排除されるわけではない |
| パートタイマー | 条件付きで対象 | 週の所定労働時間が目安20時間以上あり雇用保険に加入していることが前提 |
| 派遣労働者 | 原則対象外(受け入れ先企業から見て) | 雇用契約を結ぶのは派遣元事業主のため、申請主体も派遣元側になる |
| 出向者 | ケースによる | 出向元・出向先どちらと雇用契約関係にあるかで判断が分かれる |
| 役員・取締役 | 対象外 | 労働者ではなく雇用保険の被保険者に該当しないため |
この表を見ると分かる通り、「非正規かどうか」ではなく「雇用保険に入っているかどうか」が一次的な判断基準です。パートタイマーの方を対象に含めたい場合は、まず雇用契約書か給与システムで週の所定労働時間を確認する、という一手間が実務上は欠かせません。僕が支援した会社の中には、対象者リストの3割前後がパートタイマーだった、というケースもいくつかあり、その割合が高い会社ほど、この一手間を惜しまないことが後の手戻りを防ぐ分かれ目になっていました。
3. 派遣・出向という「雇用主が分かれるケース」の考え方
実務でいちばん誤解が多いのが、派遣労働者と出向者の扱いだと僕は感じています。派遣スタッフに社内研修を受けさせたいという相談を受けることがありますが、雇用契約を結んでいるのは派遣元の人材派遣会社であって、受け入れ先の企業ではありません。したがって、受け入れ先企業が単独でこの助成金を申請することはできず、研修を助成対象にしたい場合は派遣元事業主との調整が必要になります。
出向者についても同様に、出向元・出向先のどちらと雇用契約関係が続いているかによって扱いが変わります。在籍出向であれば出向元に雇用関係が残っているケースが多く、この場合は出向先が単独で申請するのは難しい、というのが実務上の目安です。訓練実施計画届の提出は訓練開始の目安1か月前までに行う必要があるため、出向者を対象に含めたいときほど、その1か月よりさらに前の段階で管轄の労働局に個別相談しておくことを僕はおすすめしています。判断を誤ったまま計画届を出してしまうと、後から対象者を差し替える手間の方が大きくなるからです。実務上は、出向契約書に「出向元に籍を置く」旨の記載があるかどうかを最初に確認するだけでも、判断のスピードはかなり変わってきます。
4. 定年再雇用・高年齢労働者、休業中の従業員の扱い
「うちは60代の再雇用社員が多いんですが、対象になりますか」という質問もよくいただきます。雇用保険には65歳以上の方向けの高年齢被保険者という区分がありますが、この助成金の対象労働者の考え方としては、年齢だけを理由に一律で除外されるものではない、というのが僕の理解です。定年後再雇用で雇用契約が継続しており、雇用保険にも加入し続けているのであれば、65歳を超えていても対象になり得ます。「ベテラン層はもう対象外だろう」と最初から除外して計画を立ててしまう企業を何社か見てきましたが、それはやや早計な判断だと感じています。実際、ある卸売業の会社では対象者リストの2割ほどが65歳以上の再雇用社員で、そのまま対象に含めて計画を進めることができました。
一方で、産休・育休中の従業員のように、訓練期間中に実際の業務や受講そのものに従事できない状態にある方については、休業期間中は対象に含めにくい、というのが実務上の一般的な扱いです。訓練は決められた時間数を実際に受講することが前提になっているため、休業から復職した後の受講であれば問題なく対象になり得ます。この点も、訓練の実施時期を決める段階で人事台帳と突き合わせておくとよいと思います。
5. 対象者リストを固めるまでの実務手順(所要時間の目安つき)
相談現場で僕がいつもお伝えしているのは、対象者を「決める順番」を間違えないことです。次のような順番で進めると、後々の手戻りをかなり減らせると体感しています。目安の所要時間もあわせて示します。
- 雇用保険被保険者資格取得等確認通知書または資格喪失届の控えを人事台帳から突き合わせる(目安半日〜1日)
- パートタイマー・契約社員については雇用契約書で週の所定労働時間を確認し、目安20時間未満の人を一旦除外する(目安1日)
- 出向者・派遣スタッフが対象者候補に含まれる場合は、雇用契約の所在を確認し、必要に応じて出向元・派遣元へ照会する(目安3営業日〜1週間)
- 休業中・産休育休中の従業員がいれば、訓練実施時期と復職予定日を突き合わせて受講可否を判断する(目安半日)
- ここまでで固まった対象者リストを事業内職業能力開発計画の対象者範囲の記載と突き合わせ、矛盾がないか確認する(目安半日)
この手順を訓練開始の目安1か月前より前、できれば1か月半前くらいから始めておくと、途中で対象者を差し替える事態になっても計画届の提出期限に間に合わせやすくなります。逆に、訓練開始の直前になって対象者リストを作り始めると、雇用保険の加入確認や出向元への照会に想定以上の時間がかかり、計画届の提出自体が遅れるリスクが高まる、というのが僕の体感値です。
6. 実務でつまずくパターンとその対処 — 2社のケース比較
以前、地方のある製造業の会社をご支援した際、非正規社員の比率が高く、対象者リストの半分近くがパートタイマーだったことがあります。訓練計画そのものはよくできていたのですが、実際に雇用保険の加入状況を確認したところ、週の所定労働時間が短い方が数名含まれており、その方たちは対象労働者としてカウントできない、ということが訓練直前になって判明しました。結果として、対象人数を計画届の提出前に見直すことになり、スケジュールが1週間ほど後ろ倒しになった、ということがありました。この会社は対象者リストを先に決めてから雇用保険の加入状況を後追いで確認する、という順番になっていた点が、手戻りの根本原因だったと僕は見ています。
一方で、別の卸売業の会社では、先に紹介した5段階の手順を訓練開始の1か月半前から始めていました。対象者候補の中に出向社員が2名含まれていたため、早い段階で出向元企業に雇用契約の所在を照会し、出向元側で研修を受けさせる扱いに整理し直した結果、計画届の提出そのものは当初の予定どおりのスケジュールで進めることができました。この2社の違いを分けたのは、対象者確定の作業をどのタイミングで始めたかだけだった、というのが僕の率直な印象です。
この経験から僕が強く感じているのは、対象者リストを作る順番と、着手するタイミングの両方の大切さです。先に受講させたい人を決めてから雇用保険の加入状況を後追いで確認するのではなく、最初に雇用保険の被保険者名簿を確認し、その中から訓練対象者を選ぶ、という順番に変えるだけで、こうした手戻りはかなり減らせます。特にパートタイマーや契約社員の比率が高い会社ほど、この順番の逆転が起きやすいと僕は体感しています。加えて、対象者リストを一度確定させた後も、退職や契約更新のタイミングで人数が変動することがあるため、計画届の提出直前にもう一度だけ人事台帳との突き合わせを行っておくと、直前のトラブルをさらに減らせます。
(結論)
人材開発支援助成金の対象労働者は、雇用形態そのものではなく雇用保険の被保険者かどうかで判断される、というのがこの記事でお伝えしたかった一番のポイントです。正社員だけでなく、契約社員やパートタイマー、65歳を超える再雇用社員も、要件を満たせば対象になり得ます。一方で、派遣労働者や出向者のように雇用主が分かれるケースでは、申請主体そのものが変わる可能性があるため、訓練開始の1か月以上前、できれば1か月半前を目安に、対象者確定の作業に着手し、必要に応じて管轄の労働局へ確認しておくことをおすすめします。皆さんいかがでしたでしょうか。対象者の線引きと着手のタイミングを最初に固めておくだけで、後の手戻りはぐっと減らせます。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. パート社員は人材開発支援助成金の対象になりますか?
結論としては対象になり得ます。人材開発支援助成金の対象労働者は雇用形態ではなく雇用保険の被保険者かどうかで判断されるため、目安として週の所定労働時間が20時間以上あり雇用保険に加入しているパート社員であれば要件を満たします。加入状況は給与システムや雇用契約書で個別に確認しておくと安心です。
Q. 派遣スタッフに研修を受けさせた場合、助成金は使えますか?
結論として、派遣先企業が単独で申請することはできません。雇用契約を結んでいるのは派遣元の人材派遣会社であるため、申請主体も派遣元側になります。派遣スタッフに研修を受けさせて助成金を活用したい場合は、受け入れ先企業ではなく派遣元事業主との調整が前提になる点に注意してください。
Q. 出向中の社員は対象労働者に含められますか?
結論としては、出向元・出向先のどちらと雇用契約関係にあるかによって判断が分かれるため一律には言えません。在籍出向の場合は出向元に雇用関係が残っているケースが多く、出向先単独での申請が難しいこともあります。訓練開始の目安1か月以上前の段階で、管轄の労働局に個別確認しておくことをおすすめします。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。